武蔵道場では、テコンドーの稽古に加えて「コーディネーショントレーニング」を取り入れています。コーディネーショントレーニングとは、「運動神経が良くなる」と、近年高い注目を集めている方法で、「リズム、バランス、連結、反応、変換、定位、識別」の7つの能力を年齢や個人に合った方法で高めていくトレーニングです。また、マット運動や護身の基礎である受け身なども練習の一環として行います。これらを通してあらゆるスポーツの基盤となる運動能力の獲得に力を入れています。生涯にわたり価値のある健康と身体操作を身に付けられるようサポートします。

現代の日本では、少子化や核家族化、遊べる公園が減ったこと、犯罪が多発していることから、外遊びが減っていると言われており、そのことが文部科学省でも問題として挙げられています。

文科省の「体力・運動能力調査」によると、現在の子どもたちは、親世代である30年前と比べると、ほとんどのテスト項目で下まわっている一方で、身長や体重といった体格は逆に上回っている状況です。

これは、子どもの身体能力の低下がより深刻であることを物語っています。

また、最近の子どもは、紐を結べない、スキップができない、転んだときに大怪我をしやすい、といった自分の身体を操る能力の低下も問題視されています。

子どもの体力低下は、自分の身を守れない(他人からという意味だけでなく)、生活習慣病になりやすい、ストレスに弱い、という将来的な不安にもつながっていきます。

道場では、心の指導も行っていますが、体の方にもしっかり目を向けて育成していきたいと考えています。

① 変幻自在に身体を操作できるようになり、
将来あらゆるスポーツに適応できる基礎ができる
運動を調整する能力があると、新しい動きを身につけやすくなります。幼少期に養われた運動調整能力が、以後の運動発達の基盤となります。

② 危険回避の基礎となる能力が向上する
滑らかで自然な動作ができるようになると、とっさの時にも身体が自然に動くようになり、さまざまな危険から身を守るための基礎となります。

③ 姿勢の維持、からだを支える力がつく
いわゆる良い姿勢がとれるようになり、自分の身体を支えられれば、より複雑な動きができるようになります。姿勢がよくなると呼吸効率も上がります。④の心肺機能、⑤の脳の発達(脳への酸素や栄養の供給)にもつながります。

④ 運動を続ける能力、スタミナがつく
運動能力が上がるほど、より活発に効率よく動けるようになり、運動量が増えて持久力や心肺機能も向上していきます。

⑤ 運動習慣が身に付き自発的に運動するようになる
幼少期に体をよく動かしてきた子は、その後も自発的にからだを動かすようになります。物事に積極的に取り組むなど精神面にも影響したり、将来の健康な体づくりにもつながります。

⑥ 脳の発達や学力の向上にもつながる
運動能力の高い子は学力も高い、という相関関係があることが分かっています。運動中は、様々な状況に応じて素早く判断したり、無意識のうちに集中と思考を繰り返しています。良い姿勢や生活習慣が身に付くことで脳の発達にもプラスになります。


このように、幼少期から基礎となる運動能力を高めることは、将来にわたり心身ともに健全で自信に満ちた生活が送れるようになることにつながります。 そのため道場の少年部(特に初級クラス)では、運動能力のもとをつくる「コーディネーショントレーニング」を練習に多く取り入れています。



聞きなれない言葉かもしれませんが、「コーディネーショントレーニング」とは、運動能力の基本となる7つの能力(リズム、バランス、連結、反応、変換、定位、識別)を高めるものです。

状況を目や耳など五感で察知し、それを頭で判断して体を動かす、といった一連の流れをスムーズに行う能力です。よく「あの人は運動神経が良い」「リズム感がある」などと言うことがあると思いますが、そのような動きに大きく関係しているのがコーディネーション能力です。

実はこれらの能力を伸ばすためには、いわゆる“遊び”のような運動がとても大切なのです。

鬼ごっこ、ケンケンパ、道具を使った運動、集団ゲームなど、一見そのスポーツや競技とは直接関係ないように見える「遊びのような多種多様な動き」をたくさん行うことで、体力系のトレーニングだけでなく「情報系のトレーニング」となり、脳-神経系を刺激していきます。それによって、運動の基となる神経と筋肉の回路が作られていくのです。いわゆる「運動神経が良い」というのは、情報処理能力や適応力が高く、神経と筋肉の回路が効率的に構築された状態なのです。

また、コーディネーショントレーニングは、ただ闇雲に遊びのような運動をたくさんやらせればいいというわけではありません。より効果的に行うには、子どもの特性や年齢を考慮した内容、強度、時間をチョイスしたり、この運動ではどんな能力を伸ばすことができるか、といったことを理解した上で行う必要があります。

実践する時間や条件を変えながら次々に刺激を入れ続けること、年齢に応じて基礎的なものから専門的なものに変化させていくことも重要であり、指導者の知識や経験が不可欠になってきます。

基本となる7つの能力

1
リズム能力
目で見たり、耳で聞いた情報を動きで表現する能力(マネする能力、リズムに合わせて動く能力)です。また、イメージした動きやリズムを実際に再現する能力でもあります。あらゆる運動・スポーツが上達するための基盤となるもので、人間が動作を習得していく初期段階から欠かせない能力と言えます。連続で動く、音楽に合わせる、集団で動くなど、動作の幅を広げたり上達していく過程においても重要な能力です。
2
バランス能力
止まっている時、動いている時、空中にいる時などの全身のバランスを保ち、バランスを崩した時は素早く立て直すことができる(リカバリー)能力も含みます。姿勢を維持するだけでなく、様々な状況や変化に対応しながら自身の体を自在に操ることができる能力です。リズム能力同様、あらゆる運動の基盤であり、身体運動に欠かせない能力となります。
3
連結能力
上半身と下半身、体幹と手足など、関節や筋肉の動きを巧みに同調・協調させる能力で、体幹の使い方が重要な要素になります。また、タイミング、力、スピードなどを調節し、単に連動させるだけでなく、状況に応じて体幹や手足を分離して動かすことで、自然で無駄のない動き、スムーズで巧みな動きを可能にする能力です。
4
反応能力
目や耳といった視覚や聴覚、さらに皮膚などの触覚や筋感覚などによって、合図に対して素早く察知・反応し、適切なタイミングとスピードで正確に対応して動くことができる能力です。スタートの合図だけでなく、人や物の動きに反応する能力も含まれます。
5
変換能力
状況が急に変わった時や、違う動きをしなければならない時に、条件に合った動きで素早く切り替えることができる能力です。反応能力や定位能力とも関係が深く、状況の予測判断、先取りをする能力も含まれます。立つ↔座る、走る↔跳ぶ、といった単純な動作の変換もありますが、球技や対人競技のように、人や物の動きに対して次々に動作を切り替えるなど、複雑な動作の変換もあります。
6
定位能力
味方、相手、ボールなど、特定の場所や動いているものの位置を把握したり、それらを関連付けながら動きを変化させたり調節する能力です。状況把握能力、空間認識能力とも言われています。球技はもちろん、自分自身や物・人との位置、状況、距離感などが求められる競技(器械体操や格闘技など)においても高い能力が求められますが、その他あらゆる運動にも欠かすことのできない能力です。
7
識別能力(分化能力)
主に手や足(体や頭なども含む)によって、ボールなどの用具を精密に操作する能力のことです。手と視覚(ハンド・アイ)、足と視覚(フット・アイ)のコーディネーションが身体各部、手や足などの末端の動きを微調整し、手足そのものや用具等を意のままに巧みに操ることを可能にします。

様々な遊びのような運動には複合的な動きが含まれていて、結果的に多様な動きを経験することになり、総合的な運動能力を獲得することができるようになります。コーディネーショントレーニングは一見すると遊びのようにも見えますが、実はそれこそが大切であり、様々な能力の向上に必要な運動と言えます。

欧米では昔からコーディネーション能力について研究と実践が行われており、トップアスリートやオリンピック選手の育成においても積極的に行われてきました。

サッカーのクリスティアーノ・ロナウド選手、ゴルフのタイガー・ウッズ選手などをはじめ、欧米のトップアスリートのほとんどは、子どもの頃に様々な遊びやスポーツを通してコーディネーショントレーニングを体験していると言われています。日本は遅れながらここ10数年で導入され、最近になってようやく一般にも認知度が広がってきました。メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手なども幼少期には野球以外の運動や遊びもたくさん行っていました。

神経機能は幼少期の間に急激に発達し、5歳頃までに成人の80%程度、6~7歳頃で90%程度、13~14歳頃には100%近くに達します。

そのため、幼少期に様々な運動をすることで体を自在にコントロールする能力が身に付きます。早い時期から専門種目を徹底して練習させると、技術的には急激に上達し、高い能力が身に付きやすいのはたしかです。



しかし、ここには落とし穴があります。特定の狭い分野でのスキルは身に付きますが、心と体が追い付いていないため、ある程度の年齢になると頭打ちになったり、燃え尽き症候群になってしまったりします。

また、特定の動きばかり繰り返すことで、動きの幅が制限されて他の運動やスポーツに応用が利かない体になってしまったり、教えられることに慣れてしまうと自分で考えられなかったり発想が乏しい選手になってしまう恐れもあります。運動の頻度や強度が高過ぎると怪我も多くなり、若くして取り返しのつかない状態に陥ってしまうかもしれません。

幼少期から専門種目を徹底して練習させることによって、精神的にも肉体的にも潰れてしまう選手の方が圧倒的に多い、というのが現実です。



日本のジュニアスポーツの現状は、1つのスポーツを選んだらそのスポーツに特化した練習だけをしたり、練習内容が競技(試合に勝つための練習や特定の種目の練習)に偏り過ぎている傾向があり、近年問題視されるようになってきました。

部活動においても同様の傾向が見られることが多く、そもそもスポーツの選択肢が限られている、運動の専門家がいない(安全面や技術面の不安)、練習時間が長い(ケガのリスク増、他の活動が制限される)、学校内だけの狭いコミュニティになっている、などの問題点が指摘されています。賛否両論はありますが、部活動そのものを見直す動きも活発になってきています。

また、日本はヨーロッパに比べて大人のスポーツ人口が極めて少ないと言われています。理由は様々ですが、ジュニア期に運動やスポーツに対して「つらい」「苦しい」といったネガティブなイメージを抱いてしまっていることが原因の1つとしてあげられます。

日本では、健康のために運動するならジムかランニングというのが半ば常識になってしまっていますが、本来は好きなスポーツをするなど「活動的になる」ことがとても重要なことなのです。

大人になって運動に親しむかどうか、健康的に過ごせるかどうかは、幼少期のスポーツ・運動への関わり方が最も大切です。

武蔵道場では「楽しい」というポジティブなイメージと、「できる、できた」という自信や経験がより多く得られるように導きたいと考えています。

最近になって「非認知能力」という言葉が注目されています。いわゆる学力やIQで測ることができない「やりぬく力」「自制心」「自己肯定感」「思いやり」「コミュニケーション能力」などの力のことです。

当道場で取り組んでいる「心の育成」でも非認知能力を伸ばしていくことを重要視していますが、コーディネーショントレーニングの要素をテコンドーの練習の中に工夫して組み込むことで非認知能力を高めることができると考えています。

個人やチームで競ったり、仲間と協力して考えて行うメニューなど、コミュニケーション能力を養うことができるメニューを取り入れることも大切ですが、指導者の考え方や接し方が最も重要だと思っています。心と体を切り離すことなく、相乗的な成長を視野に入れて指導できるよう、指導者も日々学び続けています。

武蔵道場では、最初から専門的なテコンドーの技術練習ばかりをして、特定の能力に長けた選手を育成するのではなく、基礎運動能力の向上をまず第一に考えています。

幸い、テコンドー自体、非常に多種多様な動きがあり、身体能力を飛躍的に向上させる要素をもっています。体をフルに使ったダイナミックな動きが特徴的ですが、運動指導者の目から見ても、左右の偏りがなく、身体運動の基本的要素(打つ、跳ぶ、蹴る、押す、引く、回る、転がる、など)をしっかり含んでいます。下記に述べる護身術やマット運動の要素も含めると、ほとんどの身体動作を網羅していると言えるのではないでしょうか。

実は、韓国では器械体操はあまりメジャーではなく、テコンドーの中にアクロバットや器械体操が含まれている道場も多いのです。

武蔵道場では様々なコーディネーショントレーニングを取り入れ、学校体育レベルの「マット運動」、基本的な「受け身」などもテコンドーの練習の一環として行い、競技のための稽古に偏るのではなく、テコンドー本来の特性をしっかり活かして総合的に学んでいけるようにしたいと考えています。

コーディネーショントレーニングとテコンドーは非常に相性が良いと言え、上級者になる頃には身体能力の飛躍的な向上も期待できます。

武蔵道場では、段階的にテコンドーの専門的・技術的な練習を増やしていきますが、始めたばかりの初級クラスでは、一般的なコーディネーショントレーニングの割合を多くし、テコンドーの基本動作は少しずつ組み込んでいくようにしています。この段階では、技術練習よりも基礎的な運動能力を育んでいくことを重視しています。

一見すると、回り道のように見えるかもしれませんが、簡単に言うと初級クラスは“種蒔き“の段階になります。テコンドーに直接関係ないようにも見える”遊びのような様々な身体運動“を楽しみながら行うことで、後々テコンドーの技術も伸びやすく、他のスポーツにも応用が利きやすい状態になります。基礎的運動能力が身に付いている子は、技術練習をしてもスポンジのように吸収が早いのです。そして、基礎的運動能力の範囲が広ければ広いほど、技術に偏りがありません。

中級クラス、上級クラス、と進むにつれて、テコンドーの専門的・技術的な練習の割合が増えていきます。テコンドーにはアクロバティックな技や難易度が高い技もあり、上級クラスではまさに“テコンドー“という練習が多くなります。 しかし、技術だけを教え込まれてきた子はここで頭打ちになることが多いのです。跳び蹴りを例にあげると、跳ぶ、回る、といった基本的な動作が巧みにできなければ、基本蹴りがいくら上手だったとしても跳び蹴りができるようになるまで非常に苦労します。そのため、中級クラスまでに基礎的運動能力をある程度高めておくことがとても重要になります。 最初は運動が苦手だったという子も、上級クラスに上がる頃には様々な技を使いこなせるようになり、テコンドーを今まで以上に楽しめるようになっていきます。

中学生くらいからは体力的な練習も行うようにし、年齢が上がるにつれて自分の体重を自在に扱えるような筋力や瞬発力を鍛えるようなトレーニングも少しずつ行っていきます。 この時期は体も成長してくるので、持久力や筋力といったフィジカル面の向上も視野に入れていきますが、この段階で基礎的な運動能力が備わっていなかったり、巧みな体の使い方を習得していないと、無理な体の使い方や力に頼った動きになりがちで、ケガのリスクも高まります。基礎的運動能力や調整力が備わっていれば、スピード、パワー、スタミナといった要素は素直にプラスされ、さらなる伸びが期待できるのです。

指導には、全日本チャンピオン、MVP、日本代表、世界大会メダリストなど、テコンドーの確かなスキルと実績はもちろんのこと、大学で教育や体育を学び、教員免許、キッズコーディネーショントレーナー、ジュニアスポーツ指導員などの資格をもつ指導者が、熱意をもって子どもたちを導きます。

その子自身の能力を無理なく引き出せるように、また、心と体の両面を育むことを念頭に指導していきます。 運動に関する相談などもお受けいたしますので、気になる方は是非ご相談ください。


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